1. テストセールスとは
新規事業や既存事業の新セグメント・新コンセプトを開発する際、いきなり大規模にプロダクト開発をするのではなく、小さく“売ってみる”ことで検証する手法がテストセールスです。特にSaaSやAIプロダクトのように、開発費が莫大かつ不確定要素の多い場合は、完成版を作る前に「本当に売れるのか」を確かめることが重要になります。
実際に、ある大手SIerの新規事業開発支援事例では、「AIプロダクト」として販売しつつも、裏側の処理は人力で行い、顧客の反応をテストしていました。漫画『トリリオンゲーム』にも似た話が登場しますが、表向きは「AIセレクトショップ」と謳いながら、裏で従業員が商品を選んでいたというものです。最初はそうやって“もっともらしく見せる”裏方運用で売れるかどうかを検証し、その結果をもとに本格開発に踏み切る。この流れがテストセールスの本質と言えます。

「まだ商品がないのに売っていいの?」という疑問の声もありますが、**「その前提を伝えながら営業する」あるいは「売ってから裏側でなんとかできる状況を整えておく」**で問題ありません。大事なのは、リリース前にマーケットニーズをある程度把握し、ビジネスとして成功する可能性を見極めることです。
2. テストセールスの手順と大事なポイント
(1)まずアウトバウンド営業でアポを取る
テストセールスとはいえ、「どうやって顧客と話すか」は既存事業の営業と本質的に変わりません。手段は電話、メール、SNSなど何でも構いませんが、**おすすめはコールドコール(電話)**です。
- スピードが早い(その気になれば今からでも実施できる)
- コールの過程で直接顧客と対話できるため、フィードバックや反応をリアルタイムで収集しやすい
- また、セグメントが本当に合っているのか、訴求が刺さるのか、というターゲットや訴求の検証も可能
- 結果、仮にアポにならなくても、顧客の意見を聞くことで”プチテストセールス”が可能になる
(2)営業資料を作る(=MVPとしての営業資料)
いきなり実物のプロダクトが完成していなくても、コンセプトやサービス詳細をまとめた営業資料を“最小限のプロダクト(MVP)”として用意します。
- 「何ができるのか」「どういう価値を提供するのか」「導入のステップ」などを盛り込む
- 実際の開発前に、この資料を使って顧客に提案し、購入意欲や疑問点を探る
- 必要に応じて人力でデリバリーする前提でも「最終的にはこうなる」というビジョンを示すことで、顧客がイメージしやすくなる
(3)商談:仮説検証とヒアリング
テストセールスでは「売れるかどうか」の確認はもちろんですが、**「どんな言葉遣い・機能・料金設定が刺さるのか」「顧客が抱える本当の課題は何か」**を商談で丁寧に聞き出すのが肝です。
- 事前に「検証したい項目リスト」や「ヒアリング項目」を準備しておく
- なぜ興味を持ってくれたのか、あるいはなぜ興味を示さないのかを深掘りする
- 課題やニーズが合わないならセグメントを調整する、要望が多いならサービス設計に反映する、といった形で随時修正をかける
(4)クロージング:有料が望ましい
テストセールスというと、無料で試してもらうことを想定する企業も多いですが、できるだけお金を支払ってもらう形が理想です。理由としては、
- 「無料なら一旦使うが、有料ならいらない」という人が多いため、無料で受注してしまうと検証にならず、目的を果たせない恐れがある
- 無料で導入した顧客は必ずしも真剣に使ってくれるとは限らない。コミット意識が薄いと、検証としても十分なフィードバックを得られない
ただ例外もあり、すでに概念がPMF(Product Market Fit)している場合は、無料導入→徐々に単価アップという戦略もあり得ます。ただし、新規事業でまだ“売れるかどうかが不明”な段階なら、少額でもいいので有料契約を目指すほうがリアルな検証になります。
(5)デリバリー:テストセールス後の学びを最大化
一般的にテストセールスの範囲はクロージングまで、と言われることが多いですが、実はデリバリー(提供)段階の学びも非常に重要です。
- 「実際に使ってみてどうだったか?」という顧客の生の声を拾う
- 人力で裏側を動かしながら、どこにコストがかかるのかを確認し、最終的な機能設計やコスト設計を洗練させる
顧客が追加で何を要望しているのかを把握し、それが本当に必要な機能かどうか再検討する
また、納品や導入が終わった後に**「別の部署を紹介してもらう」「他社にリファラルをもらう」**といった二次展開もテストセールスの大きな成果となり得ます。
3. まとめ
「まだ完成していない商品を売るなんてアリ?」と思う方もいるかもしれませんが、SaaSやAIプロダクトでは開発費が非常に大きいため、確信のないまま巨大な投資をしてしまうと取り返しがつかなくなるリスクもあります。だからこそ、テストセールスという形で小さくアウトバウンド営業を仕掛け、MVPとしての営業資料を使って実際に売ってみるのです。
- 売れることが確定してから本格開発に入れば、コストと時間を最適化できる
- そもそも“売れない”と判明すれば、方向転換や別領域へのピボットも早い段階で可能
- デリバリー段階のフィードバックによって最終的なサービス品質が磨かれる
テストセールスは「ビジョンを描いて終わり」ではなく、**市場のリアルな反応を確かめる“最初の一歩”**です。大きく失敗する前に小さく検証し、実際に顧客のお金を引き出せるかどうかを測る。その結果こそ、新規事業や新コンセプトの開発を加速させる大きな指針となるでしょう。