1. 顧客解像度とは
「顧客解像度」とは、顧客や見込み客が抱えている課題、ニーズ、意思決定プロセスをどれだけ深く具体的に理解できているかを表す概念です。
たとえば「この層がターゲット」と大まかに定義するだけではなく、誰が何を決め、どのような社内調整が必要なのか、どんな課題や要望を抱えているのか――こうした“深い情報”を把握しているかどうかが、事業拡大を左右します。
顧客解像度が高いほど、以下のような効果が期待できます。
- サービス開発や営業施策がより的確になる
- 競合との比較でも優位性を打ち出しやすい
- 余計な施策を省き、成果につながる行動を優先できる
一方、顧客解像度が低いと「なぜ売れないのか」「どこに課題があるのか」が曖昧なまま、無駄な試行錯誤を繰り返しがちです。
2. 顧客解像度を上げる11の手段
この章では、顧客解像度を高めるための具体的な手段を「対話型」と「非対話型」に分けて紹介します。なお、対話型のほうが得られる情報は圧倒的に深いのですが、コスト(時間・労力・費用)や状況に応じて非対話型のアプローチも併用すると効果的です。
<コスト×効果マトリクス>

上のように、左下に位置するもの(非対話型の一部)は低コストで始めやすい反面、あまり深い顧客理解は得にくい傾向があります。一方、右上に位置するもの(対話型の一部)はコストがかかる分、生の声や現場感に基づく深い理解が得られます。
弊社の事例
弊社は「営業支援サービス」を提供しているため、ターゲットが集まりやすい営業系のイベントやスタートアップ向け交流会に頻繁に参加し、対話型のアプローチを中心に活用してきました。
「○○な思いで新規事業を考えていて、インタビューにご協力いただける方を探しています」と素直にお願いすると、想像以上に応じてくれる方が多かったのです。しかも、その場で相手が抱えている課題を聞ければ、適度に自社サービスを紹介することも可能で、調査と営業の両立が実現しました。
また、とある知り合いは他社でインターンをしたり、タイミーでスポットバイトしたりすることで「現場視点の課題」をより深く理解していたと言っていました。時間と手間はかかりますが、顧客解像度を高めるには非常に有効な手段でしょう。
【対話型:7つ】
- アウトバウンド営業でアポ獲得
- 電話やメールで積極的にアプローチし、見込み客と直接会う機会を確保。
- 工数はやや高めだが、何もツテがなくともリアルな声を得やすい他、今からでもすぐにアクションできる点が特徴。
- イベント活用(ターゲットが集まる交流会・展示会など)
- 比較的低コストで実施可能。参加者と直接話せるため、課題感をダイレクトに把握できる。
- 有料サービス活用
- ビザスクなどで、専門家やターゲット層へインタビューを依頼。
- 短期間で深い情報を得やすいが、費用面でハードルがある。
- 営業同行
- 自社・他社の営業スタッフに同行して、実際の商談を観察する。
- コストは低めだが、頻度が案コントローラブルだったり、参加者了承などハードルがある場合も。
- 紹介してもらう
- 既存顧客や知人に会いたいターゲット像に合致する人の紹介を依頼。
- 信頼関係がある状態で話をスタートできるため、スムーズに深い話が聞ける。
- 現場訪問
- 工場やオフィスに足を運び、業務フローを見学・体感する。
- 時間と労力はかかるが、現場のリアルな苦労を肌で感じられる。
- 実際に働く
- インターンやタイミーなどを活用し、ターゲット業界の現場で仕事を体験。
- コストと労力は大きいが、得られる理解は最大級。
【非対話型:4つ】
- 受注/失注・解約理由の分析
- 自社の過去データから、なぜ成功・失敗したかを検証。
- 低コストだが、データの蓄積と分析が必要。
- 四季報、業界地図などで業界解像度を上げる
- 大枠の市場規模や成長率、主要プレイヤーの動向を把握。
- 現場の肌感までは得られにくいが、最低限の知識は身につく。
- IR、プレス、SNS、HPなどで個社解像度を上げる
- 企業ごとの決算資料やプレスリリース、公式SNSなどをチェック。
- 短時間で概略をつかめる反面、表層的な情報に留まりがち。
- 動画視聴(セミナー参加やYouTubeなど)
- ウェビナーやYouTubeで専門家の話を聞き、知識をインプット。
- コストは低いが、疑問点を深掘りしにくいので“補完的”に使うとよい。
3. インタビュー時のヒアリング項目や注意点
ヒアリングを行う際、やみくもにたくさん質問を用意すると相手に負担がかかるだけでなく、時間も足りなくなりがちです。そこで、聞きたい項目をあらかじめ整理し、自分がいま求めている情報の優先度を整理しておくことがおすすめです。
3-1. ヒアリングカテゴリ
「とにかく全部聞きたい!」という気持ちはわかりますが、何の優先度設定もなく質問を羅列すると、会話が散らばってしまい、本質的な話を深掘りできない恐れがあります。そこで、以下のような3つのカテゴリーをベースにまとめるとスムーズです。
- A:相手(組織・個人)の背景を把握する
- B:意思決定プロセスや導入時のポイントを知る
- C:今後の取り組みや業界特有の課題を探る
この分類により、「まずはAで“現状”を理解し、次にBで“購買・導入の核心”をつかみ、最後にCで“将来ビジョン”や“業界固有の課題”を見据える」という流れができ、会話全体にストーリーを持たせやすくなります。
3-2. ヒアリング項目
A:相手(組織・個人)の背景を把握する
- ミッション(部門・部署の役割)
- 個人の役割や担当領域(KPIなど)
- 日々の業務内容(ツール、スケジュール)
- 現在の課題(人員、リソース、ツール不足など)
- 過去に試した施策やサービスの成功・失敗例
ここでは「相手がどういう立場で、具体的に何をやっているのか」を理解することがゴールです。
B:意思決定プロセスや導入時のポイントを知る
- 購買・導入の意思決定プロセス(誰が予算を持っているか)
- 社内調整や稟議の流れ(どの部門と折衝が必要か)
- 競合や他社との比較ポイント(何を重視するのか)
- 望ましい成果や数値目標(売上増、コスト削減など)
- コスト感・費用対効果への考え方
このステップでは、「どんな形で導入が決まり、何が決め手になるのか」を把握し、営業戦略や価格設定に反映していく狙いがあります。
C:今後の取り組みや業界特有の課題を探る
- 業界特有の商習慣や規制
- 他に検討しているサービスやプロダクト
- 参考にしている情報源(ウェビナー、SNSなど)
- 今後1~3年で取り組みたい施策や目標
- 導入後の運用イメージ、自由意見(潜在的な悩み)
最終的に、「将来こんなことを考えているから、こういうサービスが必要になる」「業界としてこういう動きがある」という情報が得られると、今後のプロダクト開発や提案の拡張にも繋がります。
3-3. ヒアリング時の注意点
- 仮説や検証項目リストを事前に用意
何を知りたいのかを明確にすると効率が上がります。ただし、仮説に固執しすぎないよう要注意。相手が語る“意外な事実”こそ新たな突破口になる場合が多いです。 - オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを使い分ける
「なぜ?」「どう思う?」などのオープン質問で相手の意見や感情を広げ、数値やYES/NOで確認したい部分はクローズド質問で確定していくイメージです。 - 回答を誘導しない
「○○ですよね?」と聞いてしまうと、相手は“そうだ”と答えやすく、本音が出にくくなります。「○○なのはなぜですか?」と中立的に質問し、本音を引き出すように意識しましょう。
4. まとめ
顧客解像度を高めるためには、対話型の手段をどれだけ泥臭く実践できるかが大きなポイントになります。特に弊社の事例のように、営業系のイベントやスタートアップの交流会など、ターゲットが集まりやすい場所に足を運び、インタビューと同時にサービス紹介を行うやり方は、調査と営業を両立できる有効な方法です。
一方、「時間やコストに限りがある」「まずは全体像を掴みたい」という場合は、四季報やIR情報を使った非対話型手段からスタートして、要所で対話型を取り入れるのもおすすめです。
- インタビュー前に仮説を練りつつ、柔軟性を持って臨む
- オープン質問で相手の意見を深堀りし、クローズド質問で事実を確定
- 回答を誘導せず、中立的に本音を聞き出す
これらを意識して、あなたのビジネスでもぜひ顧客解像度を上げる取り組みを始めてみてください。そうすれば、より的確なプロダクト開発や営業戦略が立案でき、事業拡大につながる大きなチャンスをつかめるはずです。