はじめに
大手企業の役員や部長クラス、急成長スタートアップのCXOクラスにアプローチするのは、営業担当としては大きなチャレンジです。これまでは「電話が繋がらない」「問い合わせを待っても来ない」といった壁が多く、なかなか接触すらままならないと考えられてきました。しかし、近年はSNSの普及やアウトバウンドの高度化により、“会えない層”へのアプローチを比較的スムーズに行える環境が整いつつあります。
本記事では、エンタープライズ決裁者のアポイントを獲得するために効果があるとされるアウトバウンド施策の一覧をフラットに概観しつつ、今の時代に適した“最も効果的なチャネル”についてお伝えします。また、「成果を出す上で重要な3大要素」を中心に、実際に運用していく際のポイントを詳しく見ていきましょう。
アウトバウンド施策とその評価一覧
まず、エンタープライズ企業の決裁者を狙うアウトバウンド施策には、さまざまな選択肢があります。代表的なものを列挙すると、次のようになります。
- 電話(コール)
- + 番号さえあればすぐ始めることができ、なおかつ行動量も自由に調整可能。
- - 大企業ほど受付突破のハードルが高く、また担当者が出てくる可能性も高く決裁者に到達する難易度は非常に高い
- フォーム送信/メール
- + コストが比較的安く、短時間で大量に送付できる
- - 返事率が低くなりがちで、なおかつ「大手決裁者の目に留まるか」は未知数
- 手紙/DM(紙ベース)
- + ターゲット決裁者にダイレクトで送付することが可能かつ、一定印象に残るというメリットもある
- - 1通あたりの単価が500~1,000円ほどしてコストが高い他、受付に捨てられたり届いたとしても封を開けてもらえないリスクもある
- 交流会・カンファレンス
- + 直接対面で名刺交換や雑談ができるので、一気に信頼を築ける可能性がある。また比較的低コストで検証できる。
- - 小規模交流会だと大手決裁者が来ないことも多く、会の見極めが重要。ターゲットに接触できるかは運要素が強い。
- ビジネスマッチングサービス
- + 紹介を受けられる場合、比較的信用がある状態から関係構築をスタートできる
- - 大手企業の決裁者となるとアポ単価10万円以上することもあり、非常にコストがかかる
- Facebook
- + 大手決裁者でもDMで直接やり取りが可能
- - クローズドなプラットフォームのため、既存の知り合いとしかやり取りしない人も一定数いる
- X
- + 拡散力を活かし多くの決裁者にリーチ可能
- - 大手企業の役員が積極的に使っていないケースも
- LinkedIn
- + ビジネス特化型SNSであり、大手の部長・CXOクラスが増加中。営業機能も充実
- - 営業に特化した機能はUIが英語など一部ハードルがある
これらを総合的に見た場合、「コスト」「到達率」「ターゲットとの親和性」といった観点で、現状もっとも効果が高いのがLinkedInという結論に至ることが多いです。とはいえ、それだけで自社にフィットするかどうかは分からないため、自社にあった施策を選択するのがベストです。以下ではLinkedInを活用してエンタープライズ(大企業)決裁者のアポイントを獲得していく方法について解説していきます。
そもそもLinkedInとは?
SNSの中でもビジネス特化型として急速に注目を集めているのがLinkedInです。もともと海外で誕生し、採用やネットワーキング目的で広く使われていましたが、国内でもユーザー数が増加傾向にあります。実際、富士通が全社導入をしたり、KIRINが採用で活用を始めたりと、様々な超一流大手企業が利用を進めています。以前は私のアカウントにOracleから営業DMがきたこともありました。とりわけ大手企業のキーマンやスタートアップのCXOなど、従来であれば「どう探せばいいか分からない」層がプロフィールを充実させており、探し当てたうえで直接メッセージを送ることが可能です。
日本のSNS文化は匿名性が強い側面がありましたが、LinkedInは実名主義のため“ビジネスにおける自分”を堂々と打ち出しやすいのが特徴です。結果として、海外だけでなく日本国内でも、大手企業がインフラやツールとして導入を進めているケースもあり、部長や課長クラスが日常的にアクセスする場になりつつあります。
LinkedIn Sales Navigatorとは?
LinkedInには無料アカウントに加えて、有料のSales Navigatorという営業支援機能があります(月9,000円ほど)。具体的には、詳細なフィルタリングを用いたターゲット検索、見込み客リストの管理、共通の知り合いを可視化するといった便利機能が多数搭載されており、営業活動に大きなアドバンテージをもたらします。
- 企業規模・従業員数・所在地・業種・役職など、複数の条件を組み合わせてアカウントをリストアップ可能
- リスト管理機能で、ターゲットを複数グループに分けながらコミュニケーションを進められる
- その他にも、共通の知り合いの可視化機能、ターゲットの投稿管理機能、転職履歴の確認機能など、営業に使える様々な機能が搭載されている
現時点(2025/1)ではUIが英語で若干使いにくい点や、機能を使いこなすための学習コストが一定必要といったデメリットはあるものの、BtoB営業においては現状最も強力なSNS連携ツールの一つと言えます。
成果を出す上で重要な3大要素
リストアップ・文面・プロフィールが鍵
LinkedIn Sales Navigatorを活用した営業活動の結果を大きく左右するのは「リストアップ」「文面」「プロフィール」の3つです。それぞれを疎かにすると、せっかく良いチャネルを使っていても成果が出にくくなります。
1. リストアップ
まずしっかり「どの企業・どの役職を狙うか」を策定します。大企業の場合、部署名や役職が細かく分かれており、どこが予算を持っているか不透明なことも少なくありません。情報システム部・経営企画部・マーケティング部など、製品・サービスの特性に合わせて最も導入可能性が高いターゲットを割り出しましょう。
さらに、既存顧客の契約履歴や過去の商談データなどを活用して「どんな業種のどんな特徴を持つ企業が契約しやすいか」を洗い出すのも有効です。外部リストや調達リストを組み合わせれば、かなり精度の高いアプローチ先が見えてきます。
その上でSales Navigator上でターゲットの業種・規模・地域などのセグメント条件を明確化し、条件を絞り込みリストアップします。
またSales Navigatorでリストアップができない場合は、外部でリストを作成し、手動で検索してリストアップします。この外部リスト活用が重要で、例えば弊社ではニーズ顕在度を捉えるために求人媒体出稿企業リストや、資金調達プレスリリースを配信しているスタートアップリストを作成し、その企業名をLinkedIn上で検索してターゲットアカウントをリストアップするという取り組みで成果創出した事例がありました。
弊社の場合、「営業職を募集している=営業に困っている」「資金調達している=これから顧客獲得に投資をする」と仮定し、営業職を募集している企業や資金調達した企業をリストアップしてアプローチすることでアプローチの確度が上がった事例です。
2. 文面
企業や役職によってアプローチ手段は変わりますが、いずれにしても最初のメッセージがダメだと、その先に進めません。文面を作る際のポイントを以下に挙げます。
- Why you now / Why me を端的に示す
「なぜ今、相手に連絡しているのか」と「なぜ自分(または自社)とコミュニケーションする意義があるのか」は最優先で伝わるように書く。 - 短くまとめる
決裁者クラスは総じて忙しく、多くの営業メッセージを日々受け取っています。そこで「なぜ連絡をくれたのか」「自分にどんなメリットがあるのか」を最初の数行で把握できるよう、文面はコンパクトにまとめるのが大原則です。数行~数十行以内で完結させ、詳細は返信後に提示するイメージが良いです。 - ハードルを下げる
返信しやすい雰囲気を作るために、「ぜひ一度ご意見をお聞かせいただきたく……」「短時間でもお話をお伺いできれば幸いです」といったフレーズでハードルを下げておくと、相手が応じやすくなります。相手が返信することで「会話を続ける理由」が明確になれば、アポにつながる可能性が高まるでしょう。
文面を作る際は、相手の業界やニーズに寄り添う仕掛けも重要です。たとえば相手が製造業なら「製造現場での人手不足をどう解消するか」「海外拠点とのやり取りにどんな課題があるか」に言及すると、そのまま会話の導入になる可能性が高まります。
3. プロフィール
特にSNSを活用する場合、「どんな人が送ってきているのか」がプロフで分からないと、相手は「怪しい」と感じるかもしれません。名刺交換においても同様で、結局は担当者個人のバックグラウンドや専門性が大きく信頼を左右します。
たとえば
- 清潔感のあるアイコンにする
- ヘッダー画像を会社のサービス概要や実績が分かるデザインにする
- ヘッドラインでは「○○年からBtoBの営業を担当。製造業向けに□□を提案してきました」など具体的に書く
- 極力経歴は開示し、透明性を担保する
- 自己紹介欄には”想いやストーリー”を盛り込むことで、人間味を出したり共感を生む
シミュレーション例
前提、LinkedInではつながりがあるアカウントにメッセージを送れます。仮に申請を800件送った場合(LinkedInでは週に200申請=月に800申請が可能です)、承認率を20%とすると、160件が“つながり”になり、そのうち3~4%がアポイントにつながると結果的には月に4〜7件ほどのアポイントが取れる計算になります。仮に「大手決裁者クラスとのアポが月に4〜7件取れる」状況は十分価値が高いでしょう。ちなみにこの数値感は弊社の複数事例の平均値になるため、一定の信憑性があるかと思います(もちろん営業活動なので絶対ではございません)。
またSales Navigatorを利用している場合、月に50件のInmailを無料で送信できます。Inmailとはつながりがないアカウントにもメッセージが送れるかつ、メール通知も送信できる機能で、こちらを有効活用することでも成果を伸ばしていくことが可能になります。
まとめ
エンタープライズ企業の決裁者とアポイントを取るのは、一見ハードルが高いと思われがちです。しかし実際には、リストアップ・文面・プロフィールという3大要素をしっかり作り込み、複数のアウトバウンド施策を併用すれば“会えない”と感じていた層とも接触が可能になり得ます。
- リストアップで自社に合うターゲットを厳選し、
- 文面で相手に「返信するメリット」と「低いハードル」を提示し、
- プロフィールで担当者自身の信頼性を示す、
- そしてフォローを粘り強く継続する。
これらのプロセスを回し続けることで、従来なら入れなかった大手企業の役員クラスやスタートアップのCXO層にも、“量産”と言えるくらいの商談機会を作ることができます。特にSNSなどの新しいアウトバウンド方法が進化している今、結論としてはLinkedInを中心としたアウトバウンドが、最もバランス良く有効と考えられます。今のうちに運用を確立し、競合が追いつく前に決裁者との繋がりを押さえておきましょう。

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