エグゼクティブサマリー
LinkedInを活用したアウトバウンド営業では、メッセージの文面やターゲット選定といった「承認後」の設計が注目されやすい。しかし、その手前にある「つながり申請がどれだけ承認されるか」は、メッセージを届けられる母数そのものを決める入口の指標であり、成果目標から逆算した活動設計に直結する。
シン・セールス総合研究所では、LinkedInアウトバウンドの実務運用データをもとに、業界別のつながり申請承認率を集計・比較した。結果は以下のとおりである。
- 5業界(製造業/SIer/建設・不動産業/SaaS/物流・運輸業)合計のつながり申請7,455件に対し、承認は1,495件、承認率は20.1%であった。
- 業界別では、SaaSの24.9%が最も高く、製造業の18.4%が最も低かった。最大で約6.5ポイント、比率にして約1.4倍の開きが見られた。
- 一方、承認率が相対的に低かった製造業・建設・不動産業でも、承認後のアポイント獲得率は高い水準を示した既存の検証結果があり、承認率の低さは申請数の設計によって補える可能性が示唆される。
本検証は実務運用下のデータにもとづくため確定的な結論ではないが、業界によってつながり申請の通過しやすさに一定の差がある可能性を示すものである。
調査背景
シン・セールス総合研究所ではこれまで、LinkedInアウトバウンドについて、つながり承認後のメッセージ送信からアポイント獲得に至る成果を中心に検証を重ねてきた。製造業・建設・不動産業界を対象とした検証では、メッセージ送信後のアポイント獲得率がいずれも6%台と、一般的な目安水準を上回る傾向が確認されている。
一方で、実務の設計においては、その手前の工程である「つながり申請がどれだけ承認されるか」が重要になる。承認率はメッセージを届けられる母数を決める係数であり、この見立てを持たないまま運用を始めると、目標アポイント数に対して申請数が不足する、あるいは必要以上のリスト構築に工数を割くといったズレが生じやすい。
そこでシン・セールス総合研究所では、同一アカウントによる実務運用データをもとに、つながり申請の承認率が業界によってどの程度異なるのかを定量的に調査した。本レポートでは、業界別の承認率の差異と、そこから導かれる母数設計の考え方について報告する。
調査概要
本検証は、Emoooveが支援するBtoB企業のLinkedInアウトバウンド運用において実施された、つながり申請の実績データを業界別に集計したものである。なお、本検証は実務環境下で実施されたものであり、承認率には業界以外の要因(送信者のプロフィール、挨拶メッセージの文面、ターゲットの役職構成、申請時期、リストの作成方針など)も影響しうる点には留意が必要である。また、検証テーマごとに抽出条件(除外データ等)が異なるため、他レポートと母数(N数)は必ずしも一致しない。
1. 検証条件
- 実施主体: 経営コンサルティングサービスを提供する企業の代表者アカウント。既報のLinkedIn検証と同一の運用データである。
- 申請方法: つながり申請時に、社名と依頼趣旨を伝える短文の挨拶メッセージを添付する運用で統一している。文面は期間全体で数パターンの定型文であり、送付先ごとの個別パーソナライズは行っていない。なお、承認後に送付するDMは、既報のとおり対象企業・担当者の公開情報を踏まえた個別文面である。
- ターゲット: 各業界の企業に所属する、経営層・部長職などの意思決定関与者を中心としたリスト。
- 業界の分類: 運用時のターゲットセグメントを業界単位に集約した。業界を特定できない業界横断のセグメントは、集計から除外している。
2. 検証群の定義
- 検証期間(申請実施期間): 2025年6月〜2026年3月
- 対象: 期間中のつながり申請のうち、業界分類が可能な7,455件
- 比較する5群: 製造業(4,257件)/SIer(1,473件)/建設・不動産業(1,178件)/SaaS(353件)/物流・運輸業(194件)
- 評価指標: 各群のつながり申請数に対する、承認数の割合(承認率)
検証結果
データを集計・比較した結果、つながり申請の承認率には業界による差が見られ、最も高いSaaSと最も低い製造業の間で約1.4倍の開きが確認された。
1. 業界別の数値比較
各業界における実績値は以下のとおりである。

2. 業界間の承認率の差異
最も高いSaaS(24.9%)と最も低い製造業(18.4%)の間には約6.5ポイントの差があり、比率にして約1.4倍の開きとなった。

この5業界の承認・非承認の分布に対して統計的検定(カイ二乗検定)を行ったところ、p値は約0.0005(0.05%)となった。この検定が示すのは、「5業界の承認率がすべて同水準である」という仮説が棄却される、すなわち少なくとも一部の業界間に偶然の誤差では説明しにくい差がある、ということまでであり、あらゆる業界間の組み合わせに差があることを意味するものではない。個別の比較では、最も高いSaaSと最も低い製造業の2群比較においてp値は約0.003(0.3%)となり、より厳格な1%水準においても統計的に有意な差が確認された。
ただし、SaaS(353件)と物流・運輸業(194件)は他の群と比べて申請数が少なく、承認率の数ポイントの違いを厳密に順位付けできるほどの精度はない。また、建設・不動産業および物流・運輸業への申請は、検証期間の終盤である2026年2月以降に実施されている。承認は申請から時間を置いて発生する場合があり、集計終了までに承認を観測できた期間が他の業界より短いため、この2業界の承認率は実際よりも低めに集計されている可能性がある。本結果は、業界によって入口の歩留まりに差が生じうるという傾向を示すものとして捉えるのが妥当である。
3. 承認率と、承認後の成果の関係
承認率が最も低かった製造業は、承認後の成果まで見ると異なる姿を見せる。既報の検証では、製造業・建設・不動産業界へのメッセージ送信後のアポイント獲得率はそれぞれ6.59%・6.49%と、一般的な目安水準の約5%を上回っていた。つまり、入口の承認率が相対的に低いことは、その業界で成果が出ないことを意味しない。
既報の検証で公表された実績(本稿とは抽出時点が異なる)から、アポイント1件の獲得に必要なつながり申請数を概算すると、製造業で約107件、建設・不動産業で約89件となる。承認率の見立てとあわせて、この規模感を前提とした申請数の設計が実務上の目安となる。なお、既報のアポイント獲得率はメッセージ送信数を分母とした値であり、承認率との単純な掛け算では逆算できない。

考察
なぜ、業界によって承認率に差が生じたのか。定性的な側面から、以下の要因が考えられる。
1. 業界によるLinkedInの利用文化の差
SaaSをはじめとするIT・デジタル関連の業界は、採用や情報収集、ビジネスネットワーキングの場としてLinkedInを日常的に利用する層が厚く、つながり申請への反応そのものが得られやすい可能性がある。
一方、製造業などの業界では、アカウントは保有していても利用頻度が低いユーザーが相対的に多く、申請が閲覧されないまま時間が経過し、承認に至らないケースが多いことが推察される。承認率の差は、申請が「拒否されている」ことよりも、「見られていない」ことの影響を含んでいる可能性がある。なお既報では、スマートフォンの通知経由での開封により、承認後のDMの到達性は業界による影響を受けにくいと考察している。承認という一手間を要する入口の工程に限って、歩留まりが落ちている可能性がある。
2. 承認が「関心度のふるい」として機能している可能性
利用頻度が低い業界において承認に至ったユーザーは、LinkedInを能動的に利用している層、あるいは外部との接点に関心を持つ層である可能性が高い。承認という行為自体が一種のふるいとして機能し、承認後の相手は相対的に関心度・反応性の高い層に絞り込まれていると解釈できる。
承認率が低かった製造業で、承認後のアポイント獲得率が高い水準を示した既報の結果は、この解釈と整合的である。ただし、本検証のデータのみでこの因果を確定することはできず、あくまで仮説の一つとして捉えるべきである。
営業実務への活用
今回の分析結果から導き出される、LinkedInアウトバウンドのアクションプランは以下のとおりである。
1. 承認率を係数として、目標から申請数を逆算する
目標アポイント数から必要な承認数・申請数を逆算する際、業界別の承認率を係数として持っておくことで、リスト構築と申請活動の規模を事前に設計できる。
たとえば承認率が18%前後の業界であれば、100件の承認を得るには約560件の申請が必要になる計算である。リスト構築の工数や、アカウントあたりの申請ペースの上限も踏まえ、目標達成までに必要な期間を見立てることが推奨される。
2. 承認率の低さを、業界を外す理由にしない
承認率が低い業界は、一見するとアプローチ効率の悪い市場に見える。しかし既報の検証が示すとおり、承認後のアポイント獲得率まで含めて評価すると、製造業や建設・不動産業界は高い成果を示している。
入口の承認率と、承認後の成果は分けて評価し、承認率が低い業界では申請数を厚めに設計して補う、という運用が合理的と考えられる。
結論
今回の検証において、LinkedInのつながり申請の承認率は業界によって差があり、最も高いSaaS(24.9%)と最も低い製造業(18.4%)の間で約1.4倍の開きが確認された。なお、本結果に対して統計的検定(カイ二乗検定)を行ったところ、p値は約0.0005(0.05%)となり、5業界の承認率がすべて同水準であるとは考えにくいこと、および最も高いSaaSと最も低い製造業の間の差が1%水準で統計的に有意であることが確認された。
一方で、入口の承認率の低さは、承認後の成果の低さを意味しない。既報の検証とあわせて見ると、承認率は業界を選別する基準としてではなく、目標アポイント数から必要な申請数を逆算するための係数として活用することが妥当と考えられる。
シン・セールス総合研究所では、今後もデータを蓄積し、より精度の高い検証・発信を続けていく。
